ジオスゲニン(Diosgenin)とは

]ジオスゲニンは、ステロイドサポゲニン(ホルモンの一種であるステロイドと同じ構造を持つ植物成分)であり、ヤマ(ノ)イモ (Dioscorea japonica )または、ナガイモ (Dioscorea batatas )の根茎の成分として知られています。

その他にも、トリゴネラ属(Trigonella spp.)、アマドコロ属(Polygonatum spp.)、シオデ属(Smilax spp.)のようなハーブ薬等いくつかの植物にも含まれています。

   

ジオスゲニンは、動物モデルを用いた実験では、
(1)抗がん作用
(2)抗食物アレルギー作用
(3)ガラクトース投与による酸化ストレス誘発性の記憶障害の抑制効果
(4)糖尿病性神経障害の改善作用
等が報告されており、多様な薬理作用を持つ化合物です。

   

   

ジオスゲニンの安全性

 

健康食品のデータベースであり、アメリカのFDA(米国食品医薬品局)やNIH(アメリカ国立衛生研究所)および多くの国で公式に採用されているNatural Medicines Comprehensive Database(ナチュラル・メディスン・コンプリヘンシブ・データベース)上で、経口摂取での安全性が明記されており、また、マウス・ラット(マウスは、ハツカネズミを改良した小型のネズミ・ラットは、ドブネズミを改良した大型のネズミ)への経口投与では、8000mg/㎏の投与でも急性毒性は見られず、安全性の高い化合物であることが示されています。

  

    

ジオスゲニンの脳機能への効果

東田千尋教授の以下の一連の研究によって、ジオスゲニンが、認知症の改善、認知機能の向上をもたらすことが発見されました。

培養神経細胞にアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータを処置すると、神経細胞から伸展する2種類の突起(軸索と樹状突起)のいずれもが萎縮しますが、その後からジオスゲニンを処置すると、突起の再伸展が認められました(5)。さらに、ジオスゲニンの抗アルツハイマー病作用が、アルツハイマー病モデルマウスの5XFADマウスを用いた研究で確かめられました。

5XFADマウスは、5つの家族性AD変異遺伝子(amyloid precursor protein(APP): Sweden型(K670N, M671L)、Florida型(I716V)、London型(V717I))、(presenilin 1(PS1): M146L、L286V)を神経特異的に過剰発現させたトランスジェニックマウスであり(6)、2ヶ月齢で脳内にアミロイドベータの沈着が観察され、4ヶ月齢以降でシナプトフィジン陽性の前シナプスが減少し始めます。

記憶障害に関しては、4-5ヶ月齢では短期作業記憶、5-6ヶ月齢では物体認知記憶、空間記憶、恐怖記憶が障害されます。記憶障害が進んだ6-8か月齢の5XFADにジオスゲニンを20日間投与したところ、野生型マウスと同程度にまで記憶障害が改善されました(5)。また5XFADマウスでは、 大脳皮質や海馬に多く沈着するアミロイドベータのプラークと重なる場所に、軸索変性を示す像である軸索終末の球状化と前シナプスの肥大が認められ、また神経原線維変化(tauの過剰リン酸化)も顕著ですが、ジオスゲニン投与群ではこれらが有意に減少しました。

さらにジオスゲニンには、正常マウスに投与してもその記憶能力を強化する作用があることが分かりました(7)。その際、記憶形成に重要な部位である前頭皮質と海馬における神経細胞の発火頻度が有意に増加し、その部位での軸索密度も増加していました。このように、ジオスゲニンはアルツハイマー病時だけでなく、正常な脳に対しても認知機能の亢進作用を有していることが示唆されました。

  

ジオスゲニンの新たな効能
ジオスゲニンの新たな効能

  

ジオスゲニンの作用メカニズム

神経系以外の研究では、ジオスゲニンの作用メカニズムについてはいくつか報告があり、例えば血管平滑筋細胞におけるTNF-α誘発のAkt, ERK, JNK, p38のリン酸化抑制(8)、肝がん細胞におけるSTAT3リン酸化の抑制(9)などが示されていました。

一方、神経系でのジオスゲニンのメカニズムは不明でした。東田教授は、ジオスゲニンの直接の標的分子を明らかにするために、drug affinity responsive target stability (DARTS)法(10)を用いて網羅的に解析した結果、ジオスゲニンが、1,25D3-membrane-associated rapid-response steroid binding protein (1,25D3-MARRS)に結合して作用を発揮することを初めて明らかにしました(5)。

1,25D3-MARRSは、生体内の活性型ビタミンD3の転写を介さない速い反応を引き起こす時の受容体として同定されたものでしたが(11)、神経系でのその機能は報告されていませんでした。

ジオスゲニンは、神経細胞上の1,25D3-MARRSに作用し、少なくともその下流でPKA, PKC, ERK, PI3Kを動員させます。さらにそのあと細胞内の heat shock cognate 70 (HSC70)が減少することが、軸索伸展や記憶改善を導く重要なイベントであることも見出されました(12,13)。1,25D3-MARRSは、マウスのみならずヒトにも発現しているタンパク質です。

 

ヒトでの効果

東田教授のプロジェクトチームは、ジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスによる、健常人の認知機能向上作用を検討する臨床研究を行いました。

臨床研究の方法は、最も厳格な方法の一つであるランダム化二重盲検クロスオーバー試験で行い、検査方式として、アーバンス(RBANS)試験による認知機能検査が行われました。

その臨床試験において偽薬服用群と比較すると、ヤマイモエキス服用により、有意差をもって認知能力が向上することが確認されました(14)。また、ヤマイモエキス服用による副作用もありませんでした。

()内の数字は下記参考文献の番号

 

参考文献

1) Yan LL, et al. Exp Oncol. 2009;31:27-32.
2) Huang CH, et al. Planta Med. 2009:75:1300-1305.
3) Chiu CS, et al. Am J Chin Med. 2011:39:551-563.
4) Kang TH, et al. Biol Pharm Bull. 2011:34:1493-1498.
5) Tohda C, et al. Sci Rep. 2012;2:535.
6) Oakley H, et al. J Neurosci. 2006;26:10129-10140.
7) Tohda C, et al. Sci Rep. 2013;3:3395.
8) Choi K, et al. Vascul Pharmacol. 2010;53:273-280.
9) Li F, et al. Cancer Lett. 2010;292:197-207.
10) Lomenick B, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2009;106:21984-21989.
11)Nemere I, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2004;101:7392-7397.
12)Yang X and Tohda C. Front Pharmacol. 2018;9:48.
13)Yang X and Tohda C. Sci Rep. 2018;8:11707.
14)Tohda C, et al. Nutrients 2017; 9:1160.

  

  

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